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高知地方裁判所 昭和50年(行ウ)2号 判決 1975年12月25日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対し、別紙不動産目録記載の土地上にある別紙物件目録記載の工作物について昭和四九年一二月二七日付でなした工作物除却命令は無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  別紙物件目録添付図面<イ><ロ><ハ><ニ><イ>の各点を順次直線で結んだ線に囲まれた約一二・五平方メートル(以下本件土地という)は、原告の二男訴外藤村鎭彦の所有する別紙不動産目録記載の土地の一部であつて、原告が占有しているものである。

(二)  本件土地は以前は草地であつて、通行人は全然なかつたが、最近になつて、本件土地の附近に児童遊園地やスーパーマーケツトが建設されたため、本件土地を通行するものが増え、その中には、本件土地の北側にある原告方家屋をのぞいたり、あるいはこれに侵入しようとする者まで生じた。

(三)  原告は八八才の老齢で、病気のため自宅療養中であり、右家屋に原告の二女と二人だけで生活している状態なので、前記の状態に不安を感じ、一般人が本件土地を通行できないようにするため、本件土地上に別紙物件目録記載の工作物(以下本件工作物という)を設けた。

2  ところが、被告は原告に対し、本件工作物の設置が高知市普通河川等管理条例に違反しているとして、昭和四九年一二月二七日付をもつて、昭和五〇年一月一〇日までに本件工作物を除却せよとの工作物除却命令を通告してきた。

3  しかし右工作物除却命令は次の理由により無効である。

すなわち、本件土地は、原告の二男訴外藤村鎭彦の所有で、原告が占有し、その南側を西から東に流れる幅約二メートルの普通河川(以下本件河川という)とは何ら関係のないものである。従つて、右工作物除却命令は、本件土地につき何ら権限のない被告によつてなされたものであり、無効である。

4  なお、原告が、本件土地につき占有保全等の民事訴訟を提起したとしても、本件の工作物除却命令を排除することができないので、原告は本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因に対する認否

(一)請求原因1(一)の事実は否認する。同1(二)、(三)のうち、本件土地の附近に児童遊園地やスーパーマーケツトが建設されたため通行人が多くあること、また、原告が本件工作物を設置して一般人の通行を排除したことは認めるがその余の事実は知らない。

(二) 同2の事実は認める。同3の事実は否認する。

2  被告の主張

(一) 本件土地は被告が高知市普通河川等管理条例三条一号の規定により管理するものである。同条同号によれば「普通河川等において、工作物の新築、改築その他により流水又は土地を占用しようとするときは、市長の許可を受けなければならない」とせられている。

本件土地は河川の縄手敷(通称カマチ)として、河川の護岸及び浚渫等の用に供せられる畦畔で、同条同号にいう流水そのものであり、公共物として被告の管理権に属するものである。このことは本件土地から更に西方につづく縄手敷においても同様であり、その地域においても民有地は存しない。

(二) 原告は被告の占用許可を受くることなく、本件土地の東側と西側に板壁を設置し流水を不法に占用したので、被告は管理条例に基づき工作物除却命令を通告したのであり、本件行政処分に何ら違法不当はない。

第三  証拠(省略)

理由

一  原告が、本件土地上に本件工作物を設置したこと、これに対して被告が昭和四九年一二月二七日、原告に対し、右工作物を昭和五〇年一月一〇日までに除却せよとの工作物除却命令を通告したことは、当事者間に争いがない。

二  原告は本件土地は、原告の二男訴外藤原鎭彦が所有し、原告が占有しているもので、本件河川とは何ら関係がなく、被告の管理権は本件土地には及ばない旨主張するので判断する。

成立に争いのない乙第五、第七号証の各一、二、証人林徳衛・同浜田栄作・同福島貞量・同藤村佐代子(後記認定に反する部分を除く)の各証言及び検証の結果を総合すると次の事実が認められる。

本件河川は、当初、田の排水路として造られたが、その後、大正の初期右河川の上流に紙工場ができ、工場用水を排水するため、右河川の幅を拡げ、本件訴提起当時は、被告の管理する平均幅員二・一メートルの普通河川となつていた(昭和五〇年四月一日から準用河川となつた)。本件土地は、本件河川と原告方のコンクリート塀の間に存在している。右コンクリート塀は、原告方の家屋が建築された昭和二年頃同時に築造されたものであり、それによつて原告方の住居と本件土地とは画然と区分されている状況である。また、本件土地は、本件河川の水流が田へ入らないようにするため、あるいは本件河川の川ざらいをした時の泥を置くため、更には本件土地の周辺が市街化する以前は、農民が田へ通うためなどに人工的に築かれた縄手敷(地方で「かまち」と呼ばれている土地)として、本件河川の護岸及び浚渫等河川管理の用に供せられる畦畔である。

以上の事実が認められる。

以上の事実からすると、本件土地は、河川管理上本件河川に付属し、公共の用に供せられるものというべく、その結果本件土地の所有権、占有権は、河川管理の必要上、公法上の制限をうける、というべきである(このことは本件土地が私有の土地で、原告が占有しているとしても同様であり、所有者又は占有者の有する権利は、河川管理の必要上、制限をうけ、河川管理者はその管理権により、所有者又は占有者の権利を制限しうるのである)。

従つて、本件河川の管理者である被告が高知市普通河川等管理条例第三条第一号に基づきなした本件工作物除却命令は有効であり、本件土地が訴外藤村鎭彦の所有で、原告が占有し、本件河川とは関係がなく、右除却命令は無効であるとの原告の主張は理由がない。

三  従つて、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(別紙)

不動産目録

一 高知市中須賀町字古川九九番地

宅地  一六一・九八平方メートル

一 同所 九九番一

宅地  九九・一七平方メートル

物件目録

添付図面<イ><ロ>、<ニ><ハ>に設置された二か所の木塀

西側木塀(<イ><ロ>)高さ一・九〇メートル 幅〇・六五メートル

東側木塀(<ニ><ハ>)高さ一・七五メートル 幅〇・六〇メートル

<省略>

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